オン・ザ・コーナー
ミヒャエル・エンデのファンタジーの登場人物が入って行く城のようで…、
その建築は、四角いもので三角ができているよ!
On the corner
敷地は、滋賀県・八日市市の工業地域である。この町には大型工場が多い。
地元の人間と共に、南米の移民(外国籍住民)も多く住む。
ここは、住宅地でもあり、工業地でもある。 庶民的な居酒屋やスナックが点在しているという意味で、飲み屋街でもある。
近くには高速道路のインターチェンジがある。 敷地の形は、住宅を建てるのにはかなり稀な、鋭角な三角形である。
敷地は、2つの通りが鋭角にぶつかる角、そこに余った三角形の土地である。
住宅地とも工業地とも言えない開発の中でとり残され、だれも買い手がなく、 だからといって公共が公園にするといったようにお金をかけられるといったわけではなく、 長年放置され、置き忘れたれた土地である。
建築の形は土地の型に沿っている。三角形の土地に、底辺23×高さ12×斜辺26メートル、建築高さ13メートルの三角錐の建築である。
1~3階に2室、4階に1室、計7室の賃貸マンションである。一般的な賃貸者用住居を収めている。
1つの住居の中に、13平方メートルのリビング、13平方メートルの寝室、9平方メートルの寝室、ユニットバス、システム・キッチン、トイレを収めている。 町の人々が、賃貸として部屋を借りやすいタイプである。地域の事情に合わせている。
この建築は、構造体であるコンクリートをデザインしている。風変わりな素材は使っていない。
石とコンクリートとガラスをトランプのように散りばめている。散りばめたものが、ばらばらにならないように、“十字”でしばって結んだ。
プレゼント。おもちゃ箱、あるいはミヒャエル・エンデのファンタジーの登場人物が入って行く城のようで…、
その建築は、四角いもので三角ができているよ! 、十字は、入り混ぜた素材の力を閉じ込めているんだ。
石とコンクリートとガラスのシャッフル。言いようのないエッジの鋭さ。
塊と空白のシャッフル。ブルーと十字の“on the corner”
素材のエッジをでこぼこさせて、はっきりさせた、面と線のコンポジション。
ふぞろいな風景のなかの、都市の余白にある、普通ならあきらめるところをおもしろくするから、錯綜した想像力が生まれるんだ。
だれのものでもない。
なにものでもない。
なににも属していない。
どこの国にも属さない。
三角錐の突端は、半ば町に難破した船で、半ば町から逃れ出る舳先の虚構。
一体、ここはどこだ?
町の片隅を「一体、ここはどこだ?」、世界の果て、これ以上先へ行けない、どこにいるのかわからない、中心からはるか遠いところにいる。 果ての町にいる、町と自分を、どこにもないここ、他にないわたしにする.
都市の枠組みからとり残された土地の形を、くっきりと強調して、浮かびあがらせたかった、幻覚に似た建築。
人が町に必要としている幻覚。町の1つが、その人と関係を持つ、幻覚に似た現実。
それは、人をあざむくようで、目がまぎれる、別世界へ誘う、大袈裟であり、また、シュールだ。
建築データ:「オン・ザ・コーナー」
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所在地:滋賀
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敷地面積:261㎡
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延床面積:567㎡
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構造設計:HOJO STRUCTURE RESEARCH INSTITUTE
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施工:奥田工務店
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写真:鳥村鋼一