この建築は影である。
これはホテルである。名前は、ニンジャ・ブラック。
敷地は京都の中心部、京都御所の西にある。周囲には住宅や商店、マンション、ホテルなどがならぶ。敷地は、9メートル×35メートル、間口が狭く奥が長い一般的な京都の土地のかたちである。合計21室の小規模なホテルの計画。このホテルのオーナーは、かつて忍者がいた町、甲賀で生まれた。彼は忍者の末裔かもしれない。
ニンジャとは?忍者はその歴史の中で、常に「影」の存在であった。存在を知られてはらない、ひっそりとあなたの気が付かないところに潜み、その役目を果たす存在。
だから、「影」の建築をつくろう。ニンジャにふさわしい「影」の建築である。謎めいていて、怪しい、ひっそりとしているが、確かな存在感がある建築。
ファサードは、忍者が潜んでいると思えるデザインがいい。1階、2階、最上階の外壁に庇をつくり、その庇よりも強い印象をもつように、V字型の格子を、二重に、つけた。V字の格子は、一枚目と二枚目は半スパンずつずれている。だから、格子はより深い「影」をもつ。格子の詳細をみると、格子の断面は、1方向の面だけを茶色にしている。他の3面は黒。ホテルに茶色に塗った側(西側)から近づくとき、格子はうっすらと茶色にみえる。正面にくると、茶色は消えて、建物は真っ黒にみえる。
このホテルの中は、闇がいい。ホテルとして機能する最低限の明るさを確保して、あとは暗く、黒く。
宿泊客は、いくつかの忍者の仕掛けを見ることになる。
「落とし穴」フロントのカウンターの前の床には穴が開いている。深さ1メートルに、50本の木杭が逆さに建てられている。(穴の上にはガラスがあるので、実際に落ちることはない)宿泊客が必ずこの上を通って驚く。
「隠し扉」このホテルのフロントでは、人はいないようにみえる。壁は金色、扉はないように見えるが、宿泊客がくると、壁の一部がくるっと回転し、ニンジャが現れる。
「手裏剣」ホテルの中の壁には手裏剣が突き刺さっている。
「だまし絵」宿泊客は、ホテルの中を歩いていると、時々、プロジェクターによって照射され、突如現れるニンジャの影絵を見る。
宿泊客が客室に入ると、部屋に忍び入るニンジャの影を見る。
そして、ホテルのスタッフは...ニンジャだ。あなたはこのホテルでニンジャと出会う。
建築データ:「ホテル・ニンジャ・ブラック」
設計:イースタン建築設計事務所
建築主:株式会社 一加
所在地:京都
敷地面積:322m2
延床面積:695m2
用途:ホテル
構造設計:伊原構造デザイン研究所
施工:株式会社 創真建設
写真:鳥村鋼一、Jeffrey Friedl、稲泉孝